「高知の返杯って何?」
「高知では、お酒を飲むときに杯を返すって本当?」
「献杯と返杯はどう違うの?」
高知県外の方にとっては、「返杯」という言葉を聞いても、どのようなものなのかわからないかもしれません。
高知には、宴会を「おきゃく」と呼び、料理やお酒を囲みながら人と人との交流を楽しむ独特の文化があります。
その高知の酒席文化を語るうえで欠かせないのが、「献杯」と「返杯」です。
返杯は、単にお酒を飲むための習慣ではありません。相手と杯を酌み交わし、親睦を深めるという、高知らしいコミュニケーションの文化でもあります。
この記事では、高知生まれ・高知育ちの筆者が、高知の返杯とは何なのか、献杯との違いや返杯のやり方、高知の「おきゃく」との関係などをわかりやすく紹介します。
高知の宴会文化に興味がある方や、高知で宴席に参加する予定がある方は、ぜひ参考にしてください。
高知の「返杯」とは?

高知の「返杯(へんぱい)」とは、宴席で相手から献杯を受けた人が、その杯を相手に返してお酒を注ぐ、高知の伝統的な酒席文化です。
高知県観光情報サイトでは、目下の人から目上の人などへ敬意を表して杯を差し出してお酒を注ぐ「献杯」と、その杯を受けた人が杯を返してお酒を注ぐ「返杯」を、土佐流の飲み方として紹介しています。
つまり、簡単にいうと、
献杯を受ける → お酒を飲む → 杯を相手に返す → 相手にお酒を注ぐ
という流れです。
高知では、このように杯を通してお酒を酌み交わすことが、宴席でのコミュニケーションの一つになっています。
返杯は同じ杯でお酒を酌み交わす高知独特の文化
返杯の特徴は、相手から受けた杯をそのまま返すことです。
一般的な宴会では、それぞれが自分のグラスや盃を使ってお酒を飲むことが多いでしょう。
一方、高知の伝統的な宴席では、相手から献杯を受け、その杯でお酒を飲み、今度はその杯を相手に返してお酒を注ぐという形で交流します。
そのため、返杯には「一緒に酒を酌み交わす」という意味合いがあります。
返杯は「お酒を通じたコミュニケーション」
高知の返杯は、お酒を飲むことだけが目的ではありません。
相手のところへ行って杯を交わすことで、自然と会話が始まります。
「今日はありがとうございます」
「これからもよろしくお願いします」
「一緒に飲みましょう」
といった気持ちを、杯を通して表現することもできます。
高知の宴席では、同じ席に座っている人だけでなく、宴会場のいろいろな人のところへ行って杯を交わすことがあります。
そのため、返杯は人と人との距離を縮めるきっかけにもなります。
「杯を共有する」ことに意味がある
高知の酒席文化では、杯を交わすことそのものに、人とのつながりを深める意味があります。
土佐伝統お座敷文化を守る会でも、献杯や返杯は高知の「なかま」文化と結び付けて紹介されています。
お酒を一緒に飲むことで、初対面の人とも打ち解けやすくなる。
これも、高知の「おきゃく」で人と人が交流する特徴の一つといえるでしょう。
高知の「返杯」と「献杯」の違い

「返杯」と似た言葉に「献杯」があります。
この2つは関係していますが、同じ意味ではありません。
高知のおきゃくでいう「献杯」とは?
高知のおきゃくでいう「献杯」は、目下の人から目上の人やゲストなどに敬意を表して、自分の杯を差し出してお酒を注ぐ土佐独特の酒席作法です。
高知県観光情報サイトでは、敬意を表すために目下の者から目上へ自分の杯を差し出してお酒を注ぐことを「献杯」と説明しています。
なお、「献杯」という言葉は一般には、故人に敬意を表して杯を捧げる意味でも使われます。高知のおきゃくで使われる「献杯」は、こうした一般的な意味とは異なる、土佐の酒席文化としての使われ方です。
返杯とは?
一方の返杯は、献杯を受けた側が、今度はその杯を相手に返してお酒を注ぐことです。
そのため、
献杯=相手に杯を差し出してお酒を注ぐ
返杯=受けた杯を相手に返してお酒を注ぐ
と考えるとわかりやすいでしょう。
献杯から返杯へ続く流れ
高知の伝統的な宴席では、次のような流れになります。
- 自分の杯とお銚子を持って相手のところへ行く
- 自分の杯にお酒を注いで飲み干す
- 飲み干した杯を相手に差し出し、お酒を注ぐ
- 相手がそのお酒を飲む
- 相手がその杯を返し、お酒を注ぐ
- お互いに杯を酌み交わす

高知県観光情報サイトや高知の酒席文化に関する資料でも、このように杯を通して献杯と返杯を繰り返す土佐流の飲み方が紹介されています。
高知の返杯のやり方・作法
ここでは、高知の返杯がどのように行われるのか、基本的な流れを紹介します。
① 自分の杯とお銚子を持って相手の席へ行く
返杯は、相手が自分のところへ来るのを待つだけではありません。
自分から「この人と飲みたい」と思う相手のところへ行き、杯を交わすことも高知の宴席文化の特徴です。
お酒を持って相手のところへ行き、
「一杯どうぞ」
という気持ちで献杯します。
② 自分の杯にお酒を注いで飲む
伝統的な土佐流の作法では、まず自分の杯にお酒を注いで飲み干します。
その後、飲み干した杯を相手に差し出して、お酒を注いでもらいます。
③ 相手に「献杯」する
飲み干した自分の杯を相手に差し出し、お酒を注いでもらいます。
高知のおきゃくでは、目下の人から目上の人などに敬意を表して杯を差し出すことを「献杯」と呼びます。
④ 相手が酒を飲む
献杯を受けた人は、杯に注がれたお酒をいただきます。
伝統的な返杯では、酒を飲み干してから杯を返すという流れが基本です。
⑤ 相手から杯が返ってくる
お酒を飲んだら、今度はその杯を献杯してくれた相手に返します。
これが「返杯」です。
⑥ 酒を注いでもらったら飲む
返された杯に、今度はお酒を注いでもらいます。
そして自分もその杯でお酒をいただきます。
このようにして、杯を通してお互いにお酒を酌み交わします。
⑦ さらに別の人へ献杯・返杯する
高知の宴席では、一人と杯を交わして終わりではありません。
宴会の途中で席を移動し、別の人のところへ行って献杯することもあります。
こうして宴席にいる人同士が交流を深めていきます。
なぜ高知では「返杯」の文化が生まれたの?

返杯を理解するには、高知独特の「おきゃく文化」を知る必要があります。
高知の「おきゃく文化」と返杯
高知では、宴会のことを「おきゃく」と呼びます。
「お客さん」という意味だけではなく、料理やお酒を囲んで人々が集まり、交流する宴席そのものを指す言葉として使われています。
高知県観光情報サイトでは、「おきゃく」は結婚式やお節句、神事、花見など、さまざまな祝いの宴席で行われてきた高知の宴会文化として紹介されています。
返杯は、このような高知の「おきゃく」の中で、人と人が交流するための特徴的な作法の一つとして受け継がれてきました。
返杯は人との距離を縮めるコミュニケーション
高知のおきゃくでは、同じ席に座っている人だけでなく、さまざまな人と交流します。
返杯は、その交流を生み出すきっかけの一つです。
普段あまり話をしない人でも、
「一杯どうぞ」
と杯を差し出すことで、自然と会話が始まります。
その意味では、返杯は単なる飲酒の作法というより、人と人をつなぐコミュニケーションの文化と考えることができます。
高知の「なかま文化」と返杯

高知の酒席文化には、杯を「なかま」にして人と人が交流するという考え方があります。
土佐伝統お座敷文化を守る会では、土佐弁の「なかま」には「同士」に加えて「共有・シェア」の意味があるとして、返杯・献杯を繰り返しながら席を移動し、人と人とのつながりを深める文化として紹介しています。
杯を交わすことによって、仕事上の付き合いだけだった人とも親しくなったり、初対面の人とも会話が始まったりします。
これも高知のおきゃく文化の特徴の一つといえるでしょう。
「おきゃく」とは?高知の宴会文化を知ろう
高知の返杯を知るなら、「おきゃく」についても知っておきたいところです。
高知では宴会を「おきゃく」と呼ぶ
高知では、宴会を「おきゃく」と呼ぶ独特の文化があります。
家族や親戚、友人、地域の人などが集まり、料理やお酒を楽しみます。
高知の「おきゃく」は、食事だけでなく、人と人との交流を楽しむことも大きな特徴です。
おきゃくには「皿鉢料理」が欠かせない
高知のおきゃくを代表する料理といえば、皿鉢料理です。
大皿に刺身や寿司、煮物、揚げ物など、さまざまな料理を盛り付け、みんなで取り分けて食べます。
大皿を囲んで食事をするスタイルは、高知のおきゃくの雰囲気にもよく合います。
そして、料理と一緒に楽しむのが土佐の酒です。
おきゃくでは席を移動しながら交流する
高知のおきゃくでは、最初に座った場所だけで宴会が終わるとは限りません。
宴席の途中で席を移動して、いろいろな人と話をします。
そこで献杯や返杯が行われることがあります。
そのため、高知の宴会では「席を離れてはいけない」というより、席を移動して人と交流することも宴会の楽しみの一つになっています。
返杯以外にも高知独特の酒席文化がある
高知には、返杯以外にも独特のお座敷文化があります。
代表的なものとして、
- 可杯(べくはい)
- 菊の花
- 箸拳

などがあります。
特に「可杯」は、高知の宴会文化を代表する遊びの一つです。
高知では、お酒を飲むことそのものだけではなく、こうした遊びや会話を通じて宴席を盛り上げてきました。
県外の人が高知で返杯するときに知っておきたいこと
高知県外の方が返杯を経験すると、最初は少し戸惑うかもしれません。
しかし、基本的な考え方を知っておけば、それほど難しいものではありません。
返杯を知らなくても恥ずかしくない
高知県外から来た人であれば、返杯を知らなくても当然です。
「返杯ってどうするんですか?」
と聞けば、周りの人が教えてくれるでしょう。
高知らしい文化を体験すること自体を楽しんでみてください。
相手に返杯を求められたらどうすればいい?
基本的には、相手から献杯を受けたら、その杯でお酒をいただき、杯を返すという流れです。
ただし、現在の宴席では必ずしも昔ながらの作法だけにこだわる必要はありません。
わからない場合は、相手に、
「これは返杯したらいいですか?」
と聞いてみるのもよいでしょう。
お酒が飲めない人は無理に飲まなくていい

ここは非常に大切です。
高知の返杯文化は、お酒を通じたコミュニケーションの文化ですが、お酒が飲めない人まで無理に飲む必要はありません。
体質的にお酒を飲めない人、車を運転する人、体調が優れない人などは、無理をしないことが大切です。
「今日は飲めません」
「車なので飲めません」
と伝えて問題ありません。
飲酒を無理強いしないことも大切
昔から続く酒席文化であっても、現在の宴席では相手の意思を尊重することが大切です。
返杯は、人と人との距離を縮めるための文化です。
だからこそ、相手が飲めない場合には無理に勧めず、会話や食事を楽しみましょう。
土佐伝統お座敷文化を守る会も、飲めない人やお酒に弱い人、運転する人などを宴席の「なかま」としながら、飲酒を無理強いしないことを明確にしています。
現在の宴席では状況に合わせた対応を
昔ながらの返杯の作法を知っておくことは大切ですが、すべての高知の宴席で同じ形式が行われているわけではありません。
宴会の目的や参加者、年代、店のルールなどによっても異なります。
伝統を知りながらも、その場にいる人が気持ちよく過ごせることを大切にするのが、現代の返杯の楽しみ方といえるでしょう。
高知の返杯は「知らない人」ともするの?
高知の宴席文化を知らない人からすると、
「知らない人とも返杯するの?」
と疑問に思うかもしれません。
返杯をきっかけに会話が始まることも
高知のおきゃくでは、返杯をきっかけに会話が始まることがあります。
最初は知らない人でも、
「どちらから来られたんですか?」
「今日は何の会ですか?」
などと話が広がることがあります。
これも高知のおきゃくの面白いところです。
高知では宴席で人との距離が近くなりやすい
高知の酒席文化には、人と人との距離を縮めるという側面があります。
仕事関係の宴会でも、友人同士の飲み会でも、杯を交わすことで自然に会話が増えていきます。
もちろん、現在ではすべての宴席で返杯をするわけではありません。
「高知ではこうした文化がある」ということを知っておくと、高知の宴会をより楽しめるでしょう。
ひろめ市場などで感じられる高知の酒文化
高知の酒文化を気軽に感じられる場所の一つが、ひろめ市場です。
ひろめ市場には飲食店が集まり、地元の人だけでなく観光客も食事やお酒を楽しんでいます。
高知らしい食文化や酒文化に触れてみたい人には、こうした場所もおすすめです。
ただし、現在の飲食店で伝統的な返杯が必ず行われているという意味ではありません。
高知の返杯は今も行われている?
「返杯は昔の高知の文化なのでは?」
と思う人もいるかもしれません。
実際には、現在の高知でも「おきゃく」や土佐の酒文化は地域の文化として紹介・継承されています。
昔ながらの返杯文化
返杯は、昔から高知の宴席で行われてきた文化の一つです。
お酒を酌み交わすことで、親睦を深める。
これが返杯の基本的な考え方です。
現在の高知の宴席ではどうなっている?
現代では、昔とまったく同じ形で返杯が行われるとは限りません。
飲酒に対する考え方も変化していますし、車を運転する人やお酒を飲まない人もいます。
そのため、現在の宴席では、相手の意思や状況に配慮しながら行われることが重要です。
伝統文化として返杯を知りつつ、無理なく楽しむことが大切です。
なお、現在も高知県の観光情報サイトや土佐伝統お座敷文化を守る会などでは、献杯・返杯を含む土佐の酒席文化が紹介され、継承に向けた活動も行われています。一方で、伝統的なおきゃく文化そのものは衰退が懸念されているため、すべての宴席で昔ながらの返杯が行われているという意味ではありません。
「土佐のおきゃく」でも紹介される高知の酒文化
高知では現在も「土佐のおきゃく」というイベントが開催されています。
高知市によると、「土佐のおきゃく」は高知の街を会場として、食や酒、音楽、踊りなどを楽しむイベントです。
このように、高知の「おきゃく文化」は現在にも受け継がれています。
高知の返杯についてよくある質問
高知の返杯について、よくある疑問をまとめています。
高知の返杯とは何ですか?
高知の返杯とは、献杯を受けた人が、その杯を相手に返してお酒を注ぐ、伝統的な酒席文化です。
高知の「おきゃく」と呼ばれる宴席文化と深く関係しています。
返杯と献杯は何が違いますか?
高知のおきゃくでは、献杯は目下の人から目上の人などに敬意を表して杯を差し出し、お酒を注ぐこと、返杯は献杯を受けた人が、その杯を相手に返してお酒を注ぐことです。
献杯と返杯は一連の流れとして行われます。
返杯は必ず飲み干さないといけませんか?
伝統的な作法では、献杯を受けた人がお酒を飲み干してから杯を返すという流れがあります。
ただし、現代ではお酒を飲めない人もいるため、無理に飲む必要はありません。
お酒が飲めない人はどうすればいいですか?
無理に飲む必要はありません。
「お酒が飲めません」「今日は飲めません」と伝えて大丈夫です。
返杯は人との交流を楽しむための文化でもあるため、お酒を飲まなくても会話を楽しむことはできます。
女性も返杯をするのですか?
返杯は、性別だけで決まる作法ではありません。
宴席の状況や参加者との関係などによって異なりますが、現在の高知では、参加者それぞれの意思や状況に配慮しながら宴席を楽しむことが大切です。
初対面の人とも返杯するのですか?
高知の宴席では、返杯をきっかけに初対面の人と交流することもあります。
ただし、現在の宴席では相手の意思を尊重することが大切です。
返杯に使う杯はどんな杯ですか?
宴席によって使用する杯は異なります。
高知の酒席文化では、酒器そのものも宴席を楽しむ要素の一つです。
高知以外にも返杯の文化はありますか?
地域によって、酒席で杯を酌み交わすさまざまな文化があります。
ただし、「おきゃく」と呼ばれる宴席文化や、献杯・返杯を含めた土佐流の酒文化は、高知を代表する文化の一つです。
高知の「返杯」は人と人との距離を縮める土佐の文化

高知の「返杯」は、単にお酒を飲むための作法ではありません。
その背景には、高知独特の「おきゃく」という宴席文化があります。
返杯の基本的な流れは、
献杯を受ける → お酒を飲む → 杯を相手に返す → お酒を注ぐ
というものです。
そして、その杯を通じて会話をしたり、親睦を深めたりします。
高知生まれ・高知育ちの私からすると、返杯という言葉だけを聞くと「お酒を飲む作法」というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、返杯は、高知のおきゃくの中で、「一緒に飲んで、仲良くなろう」という人とのつながりを感じられる土佐らしい文化の一つです。
高知には、皿鉢料理を囲む「おきゃく」、土佐の酒、可杯や箸拳など、独特の宴席文化が今も残っています。
高知を訪れて宴席に参加する機会があれば、返杯の意味を知っているだけでも、地元の文化をより身近に感じられるでしょう。
ただし、現在は飲酒を無理強いしないことも大切です。
お酒を飲める人も飲めない人も、それぞれのスタイルで会話や食事を楽しむ。
それも、現代の高知でおきゃく文化を楽しむ一つの方法ではないでしょうか。
免責事項
本記事は、高知の伝統的な酒席文化について、公開されている資料をもとに紹介しています。宴席の作法や習慣は地域・時代・会場によって異なる場合があるため、実際の宴席では主催者や周囲の方の案内に従ってください。

